【楽曲解説】YOASOBI「夜に駆ける」は勇気のいる作り方をしていた!

今更ですが「夜に駆ける」を聴きました

 

下記の7点に分けて書いていきます。

 

  1. 歌詞がいい
  2. ボーカルがいい
  3. メロディーが細かすぎて驚愕。ももくろの「走れ」と比較。
  4. 勇気のいるコード進行
  5. 珍しい曲の構成
  6. 音数が少ないアレンジ
  7. 印象的なピアノとベース

 

1.歌詞がいい

曲ができたきっかけを知らないまま純粋に音楽だけを最初に聴きました。

小説投稿サイト「monogatary.com」に投稿された星野舞夜の小説『タナトスの誘惑』を原作として作詞・作曲された
参照元:wikipedia

一聴して最初に思ったのは「歌詞がいい」でした。
※小説はまだ読んでいません。

同時にスピッツのような歌詞の世界観感じました。

どういうことかというと「死」を感じる歌詞であり、解釈によってはラブソングにも失恋ソングにも聴こえて、それでいて「ポップ」なところです。

実際に小説は「飛び降り自殺をはかる「彼女」を止めようと揺れる主人公の気持ちを描いている」そうなので、そう聴くとそのようにしか聴こえなくなりますが笑、それを踏まえても素晴らしいですね。

※歌詞の解説は多くの方がしているので託します笑

1つだけ「自分ならこうする」を挙げると「君は優しく終わりへと誘う(さそう)」は「君は優しく終わりへと誘う(いざなう)」にしますね。

その方が歌詞っぽいし、頭が良い人な感じがするんですよ笑

後述するコード進行にも言えますがこの辺の作家の欲(エゴ)がないのはほんとにすごいです。

欲まみれのおじさん(私)にはできない選択です 汗

 

2.ボーカルがいい

次に思ったのは「いいボーカル!」ということでした。

テクニック的などうこうというよりも「どこにでもいそうでどこにもいない、純粋だけど陰を感じる歌声」で楽曲にピッタリです。

類似ボーカル(?)としてききものががかりの吉岡聖恵さんがいます。

吉岡さんが「陽」ならikuraさんには「陰」の魅力があります。

早口言葉のような歌詞をちゃんと届けつつ、棒歌いになるでもなく、色をつけすぎるでもなく、まっすぐに歌うのはとても難しいです。

聴けば聴くほど素晴らしい!

 

3.メロディーが細かすぎて驚愕。ももくろの「走れ」と比較。

作曲のAyaseさんがボカロ出身というせいもあるのかもしれないですが、通常のポップス(人の声)では考えにくいくらいの符割りです。

五線紙がオタマジャクシで真っ黒になりますよ笑

ももくろの「走れ」という曲でBメロ、Dメロがまさしくそれです。

ここがあるからサビや歌い出しが活きてきます。

きれいに例えるなら、隣に好きな人がいて、その人の顔が一瞬近づいたような感じですね。瞬間的に他のセクションと違うもの(早口言葉のようなメロディー)を差し込むことで曲全体の印象が強くなっています。

それで言うと、「夜に駆ける」はずーーーっと顔がすごく近くにいます笑 いつキスされてもおかしくないというドキドキが続きます。

これね、40オーバーの私からしたら考えられないんですよ。

理由としては

  • 曲全体がのっぺりしてしまう
  • 盛り上がりにかける
  • 相対的にサビが弱くなる
  • 歌いにくい
  • 飽きられやすい

などが挙げられます。

が!

夜に駆けるはこの4つをボーカルのよさ、歌詞のよさ、曲構成のよさ、アレンジのよさで、全部をクリアして、むしろ「いつキスされてもおかしくないドキドキ」に飽きることなくそのままで曲が終わります。

全体的にメロディーが食っている(シンコペーション)ところが多いので、それも飽きさせない理由かもしれないです。

なんというか今の作家が描いた曲!という感じがします。

同時に自分はおじさんなんだと感じざるを得ません笑

 

4.勇気のいるコード進行

細かいことをはしょってキーをCにして書くと、

 

  1.  F→E7→Am→Gm7・C7
  2.  F→G→Em→Am

 

この二つでほぼほぼ構成されています。

 

1は言わずと知れた「Just The Two Of Us 進行」です。

2は強いて言えば「君の瞳に恋してる進行」または「小室哲哉進行」です。

 

どちらも超王道のものです。

作曲家として、この2つを主軸として曲を描くのは相当な抵抗があります。

なぜなら王道過ぎるからです。

やっぱり多少は「個性を出したい」という欲にかられますし、この進行だと良くも悪くもとりあえず聴けるくらいのものにはすぐになってしまうんです。

仮に「明日から飲食店をオープンする」となったときに「ラーメンとカレーの店にする」と言う人がいたらなんていいます?

 

  • 逆にそれ、難しくないか?
  • 不味くはならないのはわかるけどさ
  • それで人気店にするの?

 

そんな感じになりますよね?

まさにそれです笑

例えばですが「その一言ですべてがわかった 日が沈み~」のところは私なら

F→E7→Am→D7

とかにしますし、下記のサビ*2の「怖くないよ」はFではなくF#m7(♭5)とかにしますね。

こんな選択もおじさんなんだろうなぁ汗

とにかく王道を真っ向から使う勇気はすごいです。

後述しますが、君の瞳に恋してる進行でベースがオクターブなんて勇気がありすぎて脱帽です!

 

5.珍しい曲の構成

歌詞を改めてみると不思議な(今っぽい?)曲構成です。

★歌い出し
沈むように溶けてゆくように
二人だけの空が広がる夜に

★イントロ

★Aメロ*1
「さよなら」だけだった
その一言で全てが分かった
日が沈み出した空と君の姿
フェンス越しに重なっていた

★Aメロ*2
初めて会った日から
僕の心の全てを奪った
どこか儚い空気を纏う君は
寂しい目をしてたんだ

★Bメロ*1
いつだってチックタックと
鳴る世界で何度だってさ
触れる心無い言葉うるさい声に
涙が零れそうでも
ありきたりな喜びきっと二人なら見つけられる

★サビ*1
騒がしい日々に笑えない君に
思い付く限り眩しい明日を
明けない夜に落ちてゆく前に
僕の手を掴んでほら

★サビ*2
忘れてしまいたくて閉じ込めた日々も
抱きしめた温もりで溶かすから
怖くないよいつか日が昇るまで
二人でいよう

★間奏*1

★Aメロ*3
君にしか見えない
何かを見つめる君が嫌いだ
見惚れているかのような恋するような
そんな顔が嫌いだ

★Aメロ変化形ver1.0
信じていたいけど信じれないこと
そんなのどうしたってきっと
これからだっていくつもあって
そのたんび怒って泣いていくの
それでもきっといつかはきっと僕らはきっと
分かり合えるさ信じてるよ

★間奏*2

★Aメロ変化形ver2.0
もう嫌だって疲れたんだって
がむしゃらに差し伸べた僕の手を振り払う君
もう嫌だって疲れたよなんて
本当は僕も言いたいんだ

★Bメロ*2
ほらまたチックタックと
鳴る世界で何度だってさ
君の為に用意した言葉どれも届かない
「終わりにしたい」だなんてさ
釣られて言葉にした時
君は初めて笑った

(ブレイク、転調。まさかの半音下。コードを同じにしているとはいえ、音とるの大変 汗)

★サビ*3
騒がしい日々に笑えなくなっていた
僕の目に映る君は綺麗だ
明けない夜に溢れた涙も
君の笑顔に溶けていく

(怒濤のフィルからまさかの全音半上がる転調!)

★サビ*4
変わらない日々に泣いていた僕を
君は優しく終わりへと誘う
沈むように溶けてゆくように
染み付いた霧が晴れる

★サビ*5
忘れてしまいたくて閉じ込めた日々に
差し伸べてくれた君の手を取る
涼しい風が空を泳ぐように今吹き抜けていく
繋いだ手を離さないでよ
二人今、夜に駆け出していく

★アウトロ

こうしてみるとものすごくないですか?おじさんはびっくりですよ笑

変化形のAメロって他の曲でもありますが、それを2連発は早々ないことです。

もしかしたら歌詞が収まりきらなくてこうなったんじゃないかなぁ?純粋に作曲だけだったらなかなか思い付かない試みです。

 

6.音数が少ないアレンジ

最近の曲にしては音数が少ないですね。

ドラム、ベース、ギター、ピアノだけでほとんど構成されています。

この辺の潔さもすごいですね。

そのお陰でボーカルが一段とよく聴こえます。※ボリューム自体も大きい

小編成でも退屈させないアレンジが見事なものになっています。

前述の曲構成を元に特筆すべきところのみを説明します。

 

★歌い出し
◎白玉のピアノとオブリ的なピアノがL⇔Rに振られて連弾のようになっている
→これはなかなか珍しいです!オブリ的なやつはギターとかシンセとかにすることがほとんどです。

◎後半からギターとドラム、リバースシンバルが入る

★イントロ
◎ピアノの連弾が終わり、主旋律になる。
→普通はピアノを残して主旋律はシンセとかギター、トランペットとかでいきますよ。

★Aメロ*1
◎ドラムとベースと右側からギター1本だけになる。

◎ベースがめちゃめちゃ動きまくっている
→歌い出しからこんなに動きまくっているベースは滅多にないです。ベーシストならコピーしたくなると思います!

◎後半からクラップが入る

★Aメロ*2
◎左側からギターが追加される

★Bメロ*1
◎ピアノの連弾(?)が追加

◎サビ前のキメにピアノは入らない。
→これも珍しい。普通はがっつりみんなでドカっといきたくなります。私なら7thでは足らないので#9を足したくなるほどです笑

◎キメの最後の一音は短く切られている(急速なボリュームOFFかも)
→ボーカルのサビの歌い出しが引き立っていますね。

★サビ*1
◎何がすごいってサビから登場する楽器がない。フォーリズムだけです。
→シンセストリングスなどのロングトーン系やブラスセクションなどのオブリ系も入れておらずびっくりです。

★サビ*2

★間奏(≒イントロ)

★Aメロ*3
◎Aメロ*1*2はギターでしたが、ここではピアノが使われている

◎ベースはここでもウネウネと激しく動きますがそれ以上にピアノが目立っている。ボーカルを食いそうなくらいに笑

★Aメロ変化形ver1.0
◎ここでようやく新しい音が入ります。左側からピーピポピポポ」とシンセが入ります。
→4つ打ちの曲でこの手のことをされると一気に中田ヤスタカっぽくなります笑

で、このシンセの音のすごいところは後半はなくなっていること!これもびっくりしました。徹底して音数を減らしています。

★間奏

★Aメロ変化形ver2.0

★Bメロ*2

(ブレイク、転調。まさかの半音下。音とるの大変 汗)

★サビ*3

(怒濤のフィルからまさかの全音半上がる転調!)

★サビ*4

★サビ*5

★アウトロ

・・・こうしてみると楽器が追加されるのではなく、ベースとピアノの演奏の変化で色を付けていることがよくわかります。

 

7.印象的なピアノとベース

何と言ってもピアノの存在が圧巻です。

L⇔Rにふられて、間奏の主旋律までピアノというヒット曲はそうそうないです。(私は他に知らないです)

で、恐らくは手弾きしたものをがっつりクオンタイズをかけて、手弾きでの再現不能に近いくらいの高速フレーズになることでスピード感がでています。

 


~追記(2021年1月25日)~

ピアノは全部打ち込みだそうです。これまたびっくり仰天です笑

制作当時はMIDI鍵盤もオーディオインターフェースもなく、パソコンにヘッドフォンして打ち込みしていたそうです。なんていうことでしょう汗


 

これ、私もずーっと前にやろうとしたことがあったのですが、何と言うか「機械的過ぎるものはダメ」という思い込みで手が出せなかったです。

しかし、ボーカロイドの音楽ではよくある手法らしいです(詳しくないですが)。

その辺りもおじさんはびっくりですよ笑

また、各セクションでフレーズを変えており「小編成でも飽きさせないアレンジ」のお手本のようです。

同様にベースも歌い出しからウネウネと動き、サビではいわゆる、ディスコフレーズになっています。

君の瞳に恋してる進行でディスコベースなんてあまりの思いきりのよさにおじさんはまたびっくりです汗

 

まとめ

フォーリズム主体なのでバンドでもかなりのところまで再現ができます。

ピアノとベースがめちゃめちゃうまければ高校生の時なら文化祭でやりたいくらいです。

で、プラスで曲を飽きさせない要素として「大胆な転調を含んだ、大胆な曲構成」も大きな役目を果たしています。

こういった楽曲分析をすると抱きしめてTONIGHTのイントロのように「自分の引き出しにない発見」があって感動したりするのですが、夜に駆けるは「引き出しにあるけど、勇気がなくて使っていない」ものがたくさん使われていて感動しました。

具体的には

  • コード進行
  • 4つ打ちで君の瞳に恋してる進行でベースがディスコ
  • 機械的なピアノ
  • サビから入ってくる楽器がない
  • 落ち着かせるために半音キーをさげる(転調)
  • 盛り上げるために半音よりも大きく転調させる(1音半!)

などですね。

ベタでつまらないという意味ではなく、むしろ真逆に凄みを感じました。

そして、詞も声も良いのですから、そりゃ人気があるのもうなずけます。

同時にほんとのほんとに自分はおじさんになったんだと痛感させられる曲でした笑

これからYOASOBIの曲をたくさん聴いていきたいです!

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