【楽曲解説】ジュディオング 魅せられて
前回、抱きしめてTONIGHTの解説をしました。するとそれからすぐに筒美京平さんが80歳になられたという情報を目にしました。
それなら!ということで(?)今回も昭和ポップス(歌謡曲)から、筒美京平さんの最大のヒット曲である、ジュディオングさんの魅せられてを解説します。
前回ちょこっと書いた通り、化け物のような曲ですよ!
https://www.youtube.com/watch?v=OFNW0IZUdto
魅せられて とは?
- 1979年2月25日に発売されたジュディ・オングのシングル
- オリコンの集計で123.5万枚のセールスを記録
- 作詞:阿木燿子/作曲・編曲:筒美京平
- B面の「クレタ島の夜明け」とともにエーゲ海の風光を題材にした曲
- 日本以外でも多数のカバーがある
傘太郎と魅せられてについて
1979年生まれの私が0才の時の曲なのでリアルタイムでは知りませんが、その後の懐メロ番組やらモノマネやらで知っている曲ではありました。
知っているといっても孔雀のような衣裳で外国人が歌っている、くらいの認識で、ちゃんと聴き込んだのはつい最近です。
■魅せられての7つのポイント
- 地殻変動のイントロ
- 編曲家の筒美京平
- 筒美京平の意思を感じる強力な1音
- ミラクルな空耳!
- エーゲ海の風光と女性を重ねた歌詞
- 美しく聡明なジュディオングさん
- 楽曲の世界観とピッタリ
それぞれ書いていきます。
地殻変動のイントロ
マツコの知らない世界で「地殻変動のイントロ」という言葉があったので、引用させていただきます。
番組中にも指摘されていましたが、最初にストリングスの高音が「テテテテテテテテテテテテレテレー♪」と左寄りのセンターから聴こえて、そのあとに低音の「ダダダダダダダダダダダラダラー♪」が右側から響きます。
ここは是非ヘッドホンで聴いてほしいところです。
それが2回繰り返されてから、高音と低音が合わさって「ダーラララー♪」が鳴り、迫力があります。
まず、このストリングが音そのものが良いです!生音の生々しさがしっかり録れていますね。
そして、バスドラムが通奏低音のように淡々と4つ打ちをしています。
この4つ内のバスドラムがないと、ストリングスのみになり、リズム感に欠けて迫力もなくなります。
その意味で重要な仕事をしているのですが、今の時代ではこの仕事をバスドラムがすることはそうないことです。
今ならシンセ系のリズムトラックなどが薄く鳴っていることが多いです。
しかし、この超シンプルなバスドラム故に、美しい響きのストリングスの生々しさをより引き立てています。
そして、ストリングスの高音と低音が合わさって次の展開は?となるところ(イントロ後半)から、ブズーキ(ギリシャの民族楽器)が登場し、一気に異国情緒がでます。
左からアコースティックギターのストロークと思われる音がよく聴かないと聴こえないくらいの音量で弾かれているものの、ピアノ等の鍵盤類もなく、ドラム、ベース、ストリングスを軸に楽曲が進みます。
それゆえに、通常の楽曲よりもストリングスの音量、存在が大きく、ハープがさらに楽曲を美しく、華やかなものにしているので、それはもう異国情緒と美しさに満ち溢れた曲になっています。
編曲家の筒美京平
筒美京平さんて作曲家としての功績があまりにもすごいので、そちらにばかり目がいきますが、編曲家としてもものすごい才能の持ち主だということがわかります。
・・・イントロだけでもえらく長くなったので編曲について他に特筆することは箇条書きにします。
- サビ頭でストリングスもメロディーとユニゾンしていて力強い。そこにハープ入りゴージャスになる
- 「Uh~Ah~♪」でベースが一定でストリングスは不穏な響きで絶妙
- ホルン(?)もサビでいい仕事をしている
ですね。
まぁ、とにかく何といってもストリングスが光るアレンジです。
筒美京平の意思を感じる強力な1音
今回一番書きたかったのはここです。
サビの「Wind is blowing from the Aegean」を階名で書くと「ラシドレミラシーシー」です。
ここの最後の「シー」に私は筒美京平さんの強い意思を感じました。
どういうことかというと、
ここのメロディーは普通は「ラー」なんですよ。
「ラシドレミラシーシー」を「ラシドレミラシーラー」にして、試しに歌詞を「君を好きだった~♪」にして歌ってみてください。
収まりがよくないでしょうか?
ギターやピアノで弾き語りするとさらによくわかりますが、こちらの方が歌いやすいです。
なぜなら「ラ」はコードの音なので。
しかし、この曲は「シーシー」です。
なぜこうしたのか?
前述の通り、この曲はエーゲ海の風光を題材にした曲です。
その雰囲気にふさわしい音は「ラー」はなく「シー」なんです。
細かい説明は割愛しますが「シー」の方が異国情緒が漂います。
もしこの曲に題材がなかったら「ラー」になっていて、こんなアレンジにもしていなかったことも考えられます。
つまり、
題材(発注内容)に忠実かつ、超ハイクオリティの音楽を作る、という職人(プロフェッショナル)の仕事をこの一音からだけでも感じ取れます。
ミラクルな空耳!
さらに!
ミラクルが重なります。
この「シー」にのっている歌詞が「Aegean (エーゲ海)」なんですが、ほとんどの人は「エイジア」に聴こえます。
異国情緒漂う一音にのっている歌詞が「エイジア」に聴こえて、歌手もエイジアな方(ジュディオングさん)です。
この重なり具合がミラクル過ぎます。
実際に私は子供ながらに「エイジアと歌っている」「エイジアな人が歌っている」とばかり思っていました。
狙ってやったのか、結果的にそうなったのか?
恐らく私は後者だと思います。
実際にWikipedia情報によると、歌手は違う方になる予定もあってそうですから。
後世にも残る名曲はこういうミラクルがある曲が多いですが、まさに魅せられてはその代表的な曲ではないでしょうか。
エーゲ海の風光と女性を重ねた歌詞
マツコさんが「女は強いんだ、女は自由でいいんだ」という初めての歌という趣旨のことを言っていましたが、まさにその通りですね。
エーゲ海の風光の雄大さ、自由さ、美しさと女性を重ねたところが素晴らしい。
阿木耀子さん、さすがです。
最も印象的な一節は「好きな男の腕の中でも 違う男の夢を見る」ですが、そちら以外で印象的な歌詞を一部抜粋します。
- 女は海
- 私の中でお眠りなさい
この2つは母性であったり、男性を手のひらで転がすような賢く強い女性を連想させます。
マツコさんのスタイリストでオカマの方が「この曲を聴いて母親の紅をさすようになった」そうですが、なんとなくわかります笑
一言でいうなら
「女性は強く自由で美しい」
そんな歌詞ですね。
この時代は今よりも男尊女卑社会で「女は家庭に入って男をたてろ!」なんて頃でしょう。
そんな中でこの歌詞の内容は多くの人に斬新に見えたのではないでしょうか。
美しく聡明なジュディオングさん
「異国情緒漂う美しい曲」を歌うのにこれ以上ないくらいピッタリの方ではないでしょうか。
Wikipediaでジュディオングさんについて調べたらめちゃくちゃすごい方なんですね!!知らなかった!!
- 母語である台湾語のほか、日本語、英語、中国語、スペイン語、広東語の6言語を話すことができる
- 中華圏でも歌手、女優として活躍
- 台湾の国民栄誉賞・海光奬彰を受賞
- 木版画家としても活躍
番組内で出演された姿は70歳とは思えない美しさで、レコード大賞のVTRではマツコさんが「キレイ!!」と叫んでいましたが、本当にキレイです。
美しく聡明なジュディオングさんのイメージと、歌詞の女性のイメージがこれまたピッタリです。
楽曲の世界観とピッタリの衣装
Wikipedia情報によると
このドレスはエーゲ海の映像を映すための「スクリーンドレス」としてデザインされたが(ダイアナ・ロスが来日公演で袖に映していたのがヒント[6][7])、フジテレビ系『ミュージックフェア』での発表時に映像が間に合わなかったという。そして急遽、逆にバックから光を当てる演出に変更したら大反響で、定番にしたという
とのことですが、まぁ、これは見る人の度肝を抜きますし、それでいて楽曲の世界観とピッタリです。
これを70歳になっても格好良く「着こなせる」のはジュディオングさん以外にいないのではないでしょうか。
まとめ
作詞、作曲、編曲、歌唱、歌手、衣装、時代背景などなど、すべてが高次元で噛み合った奇跡のような曲!
ですね。
個人的には今回こちらを書くに当たって聴き込んだことにより、編曲家としての筒美京平さんのすごさを改めて知ることができました。