【音楽分析】米津玄師「Lemon」

前回「Lemon」がカラオケで歌われる8つの理由について書きましたが、今回は音楽分析をしていきます。

要点を先に挙げます。

 

  1. シンプルだけど味のある構成
  2. シンプルなアレンジ
  3. サビのメロディーは「戦場のメリークリスマス」を彷彿させる
  4. ミスチル桜井さんと共通する切ない音に切ない言葉

1.シンプルだけど味のある構成

イントロなし→A→A→B→サビ→間奏4小節→A→B→サビ→C→サビ(最後に高音フェイク)

J-POPの王道の構成です。ほとんどの方が無理なく聴けます。

ただちょっと捻りがあるのはイントロなし、ギターソロなどの長い間奏なし、アウトロなし、という点。

前回書いた通り、カラオケで歌うには最適です。

 

2.シンプルなアレンジ

終始音数が少なく、しかもベースとストリングス以外は恐ろしくシンプルです。

構成も音もシンプルだと通常、Cメロやギターソロ(間奏)でぐわーんと盛り上がることが多いのですが、ギターソロはなく、Cメロはむしろ盛り下げて(?)ます。

各パートについて掘り下げます。

 

ドラム

ドラムは堀正輝さんが叩いているようです(Wikipedia情報)が、フィルもないのでどこが生ドラムか判別が困難です。

全部打ち込みでも全然良いような気がしますが、そこは何かこだわりがあったんでしょうね。

Aメロに「ウェ!」いう音が入っていますね。効果はよくわかりませんが笑、ちょっと今風になるのかなぁ。

ハンドクラップやBメロで鳴る高音が楽曲に彩りを付けていて素敵です。

 

ベース

こちらは生ベースがはっきりと感じられます。

素晴らしい存在感です。随所にくる高音がいいですね。

1曲通して白玉中心のせいか、音を切っている2番のAメロがやたらR&Bっぽく聴こえます。

後述する特筆すべきコードのところでもベースがいい仕事をしています。

 

キーボード

恐ろしいほど白玉を弾いています。

打ち込みかと思ったら伊澤一葉さんが弾いています(Wikipedia情報)。

ここまで白玉でいくのは勇気が要ります。

もう少し弾いてもいいんじゃないかと思いますが、白玉で押しきることでループ感が強まりますね。

 

ギター

米津さん本人による演奏ですね。

アルペジオパートと、サビのストロークパートとなっています。

サビ前のチキ!という音を聴くとミスチルのロックな曲ベスト5にも書いたRadioheadのCreepをどうしても連想してしまいます。

 

ストリングス

唯一活発な(?)動きをしています。

ストリングスの有りと無しでは全然違う味わいの曲になったでしょうね。

 

3.サビのメロディーは「戦場のメリークリスマス」を彷彿させる

ここからちょっとマニアックな話になります。

サビのメロディーはキーをCにして歌うと

  • レミレドラドー、ミソー、レド×2
  • レミレドラドー、ミソーソラーソー、ドソミソレ

です。

戦場のメリークリスマスは

・レミレラレー、レミレミソミレミレラドー、ドー、ソミ

です。

共通点がわかりますでしょうか?

まず、「ファ」が使われていません。

そして、最後に1音だけ「シ」が使われています。

 

これはどういうことでしょう?

 

ファとシのない「ドレミソラ」という5音はペンタトニックと呼ばれ、特にギタリストにはお馴染みの音階です。

ヨナ抜き音階ともいって、民謡や演歌などでもよく使用されます。

この5音のみで作曲するとなんともアジアンテイストの曲になり、使い方を間違えるととてもダサいメロディーになります。

うまく使うと「上を向いて歩こう」のAメロのようになります。

上を向いて歩こうでは、サビで「ファファソラー」と「ファ」からはじまり、そのあとでブルーノートが使われることで、西洋人がアジア的な斬新さと西洋的な親しみのある曲として受け入れた(ビルボードチャート1位)とも言われています。

 

余談として「ドミファソシ」だと琉球音階になります。

BEGINの沖縄感ある曲とか弾けばよくわかると思います。

 

横道にそれましたが、、、

 

・・・これから書く戦場のメリークリスマスの制作エピソードは、私の薄い記憶による記述になりますので、話し半分に聞いてください笑

「シ」が最後に1音だけ出てきます。

戦場のメリークリスマスの作曲の坂本龍一さんが、あえてこだわって使った音がこの最後の「シ」の音です。

戦場のメリークリスマスは映画用に書き下ろされた曲で、最初は違うメロディーでした。

「もっとアジアっぽく」と書き直しを命じられて、前述のペンタトニックでメロディーをかき、最後にスパイスとして「シ」を使いました。

この「シ」があることで、相対的に外のメロディーがよりアジアンテイストに聴こえます。

例えばLemonの「あなーたとともーに」の「ソドー、シソー、ミソレー」を「ソドー、ドソー、ミソレー」と弾いて(歌って)みると、おしゃれ感が薄まって、妙なアジアンテイストに聴こえませんか?

例えるなら「シ」はお寿司のわさびのようなもので、それ自体が美味しいというよりは全体の味を締めてくれます。

米津さんが戦場のメリークリスマスを意識したかは知りませんが、レクイエム的な曲ということで、何かがオーバーラップしたのかもしれないですね。もちろんパクリとかではなくて。

ついでにいうと、サビの最初のコード進行は「F→C」の「アーメン進行」ですので、そこにもレクイエム的なものを感じます。

よくできてます笑

 

ちなみに、この最後に「シ」が出る曲として、Every Little Thingの「キヲク」もサビで同じことをやっています。

・レーミーレードドー、レレミラソラー、ラーミミー、ミーミ、レードド、レドレミミー

この辺りの話が好きな方はこちらの本をどうぞ。かなりマニアックなので音楽理論がわかっている人で、なおかつ音楽(作曲)マニア以外の方には薦められませんが、良書です。マニア同士で舌戦が楽しめそうな内容です。

 

4.ミスチル桜井さんと共通する切ない音に切ない言葉

コード進行もとてもシンプルですが、おっ!と思う箇所として3つありましたのでそれぞれ解説します。

1.切なさ抜群のⅢ♭dim7

「今だにあなたのことを 夢に見る」

こちらの「を」の時にぐっときませんか?

これはキーをCでいうとE♭dim7という音です。

次のEに向けた経過音ではあるのですが、「あなたのことを」の「ことを」がファ、ファ#、ソ、と、こちらも経過音的メロディーになっており、メロディーとコードが待ち合わせをしているかのようです笑

ちなみにこのコードを美しく響かせている代表曲はエルビルコステロの「she」です。

歌い出しの2小節目頭です。

私はsheでⅢ♭dim7の甘美な響きを知り、早速自分の曲で使いましたよ笑

 

2.タイトルの「Lemon」で一時転調

サビで「甘いLemonの匂い」と、タイトルのLemonが歌われますが、ここで、一時転調をしてマイナーにいくことで暗くなります。

ジャズでいうところのツーファイブですね。

  • Bm7(♭5)→E7→Am
    れもーんのにおーい

と、なってます。

このコード進行自体がものすごい斬新!というわけではないのですが、ここに歌詞の意味深なタイトル「レモン」が使用されている点が素敵です。

 

名曲って切ない音には切ない歌詞がのっていることが多いですが、そのバケモノがミスチルの桜井さんです笑

 

まとめ

分析して思ったのは「そりゃ売れるわ」でした。

どの世代にも無理なく聴けて、海外の人にもサビのアジアンなメロディーが心地よいのではないでしょうか。

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