【楽曲解説】Mr.Children「水上バス」
「ミスチルの隠れた名曲は?」と聞かれておすすめするのが「水上バス」です。
ファンの方でも「はい、歌ってみて!」と言われてすぐに歌える人の方が少ないと思います。
初期の曲ならともかく、売れまくりのアルバム曲ですから、ファンは知ってて当然のはずなのにあまり知られていません。
隠れ過ぎている理由
水上バスは失恋ソングです。
となると、否が応でもミスチルファンは食いつくはずなのに、ファンでも多分パッと曲を思い浮かべられる人は少ないでしょう。
実際にミスチルファンの方と飲んでもこの曲が話題に出ることはありませんし、私もずいぶん経ってから曲の良さを知りました。
なぜここまで隠れていたのか?
DVDに入っていない- 収録アルバムに大型タイアップ曲が5曲もある
多分、この2点ですね。
※※※11月21日追記※※※
訂正します。DVDに入っていました!
Mr.Children Tour 2009 ~終末のコンフィデンスソングス~ [DVD]
失礼致しました。
収録アルバムは「SUPERMARKET FANTASY」です。
もっとこの曲のファンがいていいはずなんだけどなぁ。
タイアップ曲に埋もれた感はありますね。
まぁそれもミスチルあるあるですが。
では、歌詞の解説をはじめます。
Aメロ(1)
買ったばかりのペダルを
息切らせて漕いでは桟橋へと向かう
深呼吸で吸い込んだ風は
少し石油の匂いがして
その大きな川に流れてた
自転車で川沿いを走っている様子ですね。
なんとなく「桟橋」という言葉が心地よく耳に残ります。
ネット情報ですが、桜井さんがこの曲を制作するにあたり、実際に水上バスに乗ったそうです。
「少し石油の匂いがして」というのは実体験がないとなかなか書けないフレーズですね。
Bメロ(1)
君を待ってる 手持ち無沙汰に
ぼんやりした幸せが満ちてく
向こう岸から ゆるいスピードで
近づいてくる水飛沫は君かな?
自転車を漕いでいたのは、水上バスに乗った彼女を見るためだったわけです。
そして、まだかな?と海に目を向け、彼女を待つ時間に「ぼんやりした幸せ」が込み上げたわけです。
この「ぼんやりとした幸せ」という表現がたまらないです!
別に彼女は何かをしてくれたわけでもなく、まだ視野にすら入ってないわけです。
そしてもう何度も見ている(会っている)はずなのにそろそろそろ彼女が来る、という時間が「ぼんやりと幸せ」なわけです。
主人公の彼女への想いや、2人の仲の良さも伝わってきます。
サビ(1)
水上バスの中から僕を見つけて
観光客に混じって笑って手を振る
そんな透き通った景色を 僕の全部で守りたいと思った
彼女の乗った水上バスが来て笑顔で手を振り合う様子がわかります。
透き通った景色、というのが純粋な想いを表しているように感じます。
このサビにある「僕の全部で」という表現がすごく好きです。
- 「身体中で」守りたいと思った
- 「ありったけの思いで」守りたいと思った
- 「いつまでもずっと」守りたいと思った
などでもいいんですが、それらを丸々飲み込んだ「僕の全部」で守りたいわけです。
キュンキュンしますね笑
Aメロ(2)
君乗せて漕ぐペダルに
カーラジオなんてないから
僕が歌ってた
そのメロディーに忍ばせて
愛しさの全部を
風に棚引かせて歌ってた
自転車で二人乗りしている様子が連想されます。
鼻歌に「すげぇ楽しい」「愛しているよ」とかを「フフフン♪」と鼻歌に乗せて歌っているわけです。
幸福感がすごいです!
やわらかい風にも「君の自転車の後をジョギングして かけてく遊歩道 それで嬉しかった」という少し似たシーンがありますね。
Bメロ(2)
「この間偶然 見つけたんだよ
新しいカフェ きっと気に入るよ」
君と過ごす日の事をいつでも
シミュレートしてこの街で暮らしてるんだ
ここもズキュンときます。
恋人がいるとついつい「これ、好きそうだな」とその人にとって良いものは頭に残しますよね。
この話をするとどうしてもダウンタウンのトークを連想してしまいますが笑
「ふたりでジャングルに行って、浜田さんが毒蛇に噛まれてしまったら、松本さんはどうしますか?」というハガキ。
松本 「あのー愚問やと思うんですよ」
浜田 「おっ、これは何でですか?」
松本 「僕は浜田に…浜田のことしか考えてへんからね」
浜田 「あっはっはっはっは!」
松本 「だから毒蛇が出てきた時点で、僕はその毒蛇を許さないですから!」
浜田 「あっはっはっは!」
松本 「何俺の浜田の前に出てきとんねんと!」
浜田 「あっはっはっは!」
松本 「はははは!しかも聞いたら毒を持っている!」
浜田 「誰に聞いたんや! 笑」
松本 「下馬評では毒を持っている!」
浜田 「何や下馬評って!」
松本 「もう腹立ってしゃあないわ!」
浜田 「あっはっはっは!腹痛い…」(腹を抱えて笑いつつ)
松本 「だから、浜田が噛まれるところまでまず行かない!俺何かをするとき…例えばここにある消しゴムを取るとき、これは浜田にとって良いのか悪いのか…」
浜田 (いやいやいや…というジェスチャー)「そんなんどうでもええやん」
松本 「何だって浜田!浜田としか考えてないからね」
浜田 「あっはっは!アホやこいつ!」
松本 「俺が朝麦茶を飲みましょう。この麦茶は浜田にとっていいのか…」
浜田 「もぉええ!」
余談ですが、この手のボケをマジだと思う人が昔より多くなった気がします。
・・・解説に戻ります笑
サビ(2)
夕日が窓際の僕らに注ぎ
君は更に綺麗な影を身につける
君への思いが暴れだす
狂おしいほど抱きしめたいと思った
ここの歌詞もロマンチックでありちょっとエロを感じていいですね。
Bメロの(2)の歌詞をくみ取ったら「カフェの窓際席」に座っていたら夕日が入ってきた、ということでしょう。
夕日に照らされた彼女に陰影ができて、一段と綺麗になった。
それをみて思いが暴れだすわけです。
- 「好き」が暴れだした
- 「性的なもの」が暴れだした
どちらとも捉えられます笑
Cメロ
川の流れのように
愛は時に荒れ狂ってお互いの足をすくいはじめる
僕が悪いんじゃない でも君のせいじゃない
「さよなら」を選んだ君はおそらく正しい
抱きしめたいを彷彿させる甘い甘い世界が、Cメロでストーリーがガラッと変わります。
それまでの甘い甘い世界が過去のことだったわけです。
音楽もオルガンが厚く入り、ボーカルがタブルになります。
ダブルのボーカルのゆらぎが川の流れを連想させます。(素晴らしい編曲!)
相手のさよならを肯定するのはジュンスカの「休みの日」を彷彿させます。
僕の大好きな君が
決めたことだから
たぶん さよならを好きに
なれるかもしれない
桜井さんも好きな曲で、bankbandでもカバーをしています。
あれだけ仲良しだった彼女と別れて、未練がまだあるという感じですね。
僕が悪いんじゃなく、君が悪いんじゃなく、彼女からさよならを告げられて、その気持ちを肯定する理由はなんでしょう?
Bメロ(3)
悲しみが満ちてく
僕は待ってる 今日も待ってる
想い出の中に心を浸して
「Bメロ(3)」の「待ってる」は何を指すのでしょう?
「彼女が戻ってくること」だとしたら、「彼女が夢に向かって上京するシーン」かなと思いました。
それなら彼女のさよならを肯定的に捉えられます。
しかし、待ってるものが彼女ではなく「彼女への想いが消えること」だったり「彼女の気が変わってまた自分の元に戻ってくること」だったり、解釈はいろいろになりますね。
サビ(3)
水上バスの中から僕を見つけて
観光客に混じって笑って手を振る
そんな穏やかな景色を巻き戻すように
川の流れに沿って
ひとりペダルを漕いで
同じ場所で自転車に乗りながら、仲の良かった頃のことを思い出しています。
ひとりペダルを漕いで、というフレーズを最後に持ってくる辺りがさすがです。
歌詞の解説まとめ
桟橋でよくデートをしていた二人。
どちらが悪いということもなく、別れてしまった。
さよならは彼女が言った。僕(主人公)も納得をした。
でも、桟橋を自転車で走ると水上バスに乗った楽しい思い出がこみあげて悲しくなってしまう。
今も僕は君を待っている。
・・・というところでしょうか。
私はやはり「彼女の気が変わってまた自分の元に戻ってくること」を待っていると解釈します。
解説して思ったこと
ミスチルの失恋ソングは珠玉の名曲揃いですが、なぜこの曲はそのリストになかなか挙がらないのか、解説を通して、タイアップ曲に埋もれた以外の理由がなんとなくわかりました。
【理由1】ミスチルらしい切ない響きがない
ミスチルのすごさのひとつ、は切ない音には切ない歌詞がつけられていることです。
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しかし、この水上バスにはこれというところが見当たりませんでした。
そこまでミスチルらしさを感じられない曲のかもしれません。
他のアーティストの名曲と変わらないというか。
【理由2】水上バスが非日常的
「over」では「風邪がうつるといけないからキスはしないでおこう」や「顔をわりに小さな胸」など、ものすごく日常的でイメージのつかみやすい内容が多いですが、水上バスに乗った彼女を外から見て手を振る、というのは経験がある人はかなり少ないでしょう。
もっと言えば水上バスに乗ったこともない人からすると、かなりイメージがつかみにくいです。
その辺りで、親近感が持ちにくいのかもしれません。
ミスチルのアンサンブルの良さがわかる曲!
バンドアンサンブルについても書きます。
水上バスのウワモノ楽器は、エレピ(ローズ?)、アコースティックギター、トレモロの利いたエレキギターという、ミスチルのほっこりサウンドの真骨頂の組み合わせで、曲が進行します。
口笛のイントロと同じほっこり感を感じる方も多いんじゃないでしょうか。
ミスチル(+小林武史)のバンドアレンジのすごいところなのは全パートがメロディーに呼応した演奏をしているところです。
いわゆるシンプルなコード弾き、ルート弾きがほとんどなく、それぞれがオブリを入れて、そのオブリ同士でユニゾンしたりと聴き応え満載です。
オブリとは・・・
オブリガート (イタリア語: obbligato) は、助奏のことである。主旋律を引き立てるために演奏される短いフレーズで、曲調の変化を跨ぐ場面で特に重要となる伴奏である。オカズやオブリなどとも呼ばれる。ドラムスが旋律の空白部を埋める (英: fill in) ための特別なパターンを、フィル・イン、あるいは単にフィルと呼ぶ。元来はクラシック音楽と同様に楽曲に必須とされるものだが、楽譜に“Obbligato”や“Fill in”と書くだけで演奏者に一任されることもあり、即興演奏される場合もある。
引用元:Wikipedia
音数が少ないこともあり、その意味ではミスチルの凄さがわかる曲かもしれません。
特に!
田原さんのバッキングギターファンにはたまらない曲です!(マニアック/笑)
珍しく音色を変えることなくずっとトレモロで、しかも全体の音数が少ないこともあり、ギターフレーズが左側からよく聴こえます。
亀田誠二さんが「最高のバッキングギタリスト」と評していましたが、とてもよくわかります。
こういうギターを弾くギタリストはあまりいません。
そして負けじと(?)エレピが素敵バッキングを入れてきます。
この掛け合いはたまらないです。
そしてそれぞれが食い合うことなく、むしろ響き合い、メロディーをひきたてます。
この曲ではベースとドラムが控えめですが、曲によってはベースもそこに入ってきますが、ギターとキーボードの隙間のおいしいところを突いてくれます笑
そんなバンドっていそうでなかなかいないです。
ミスチルというと桜井さん+バックバンドくらいに思う人も多いかもしれませんが、そんなことはないです。
単純に弾き語りでも十分かっこいい、クオリティの高すぎる曲ができてしまっているから、各プレイヤーにまで耳がいかないだけです笑
※各プレイヤーのこともいつかまた書きます。
・・・ということで!
「水上バス」は、素敵な失恋ソングであると同時に、田原さんのギターを堪能できる曲でもあります笑
音楽をやっていない方も、ヘッドホンをして左側から聞こえる田原さんのギターに耳を澄ませることをおすすめします!