ミスチル桜井さんの作曲のすごさを「innocent world」を例に3つに分けて解説

以前にミスチルの歌詞について書きました↓
今回は作曲・編曲についてです。
間ジャムでは杉山勝彦さんが「終わりなき旅」を取り上げ、転調の多さ、ギターのリフがずっと止まらないのが、人生は紆余曲折をしながら続くことを現していると解説されていて、なるほどなぁと思いました。
終わりなき旅は歌詞もどこを切り取っても名言ばかりという感じで、名曲にふさわしいです。
この壮大なバラードをライブの1曲目に持ってくるところもミスチルの凄さですが笑
「ミスチル割り」の曲
同様に、杉山勝彦さんが、innocent worldやAnyで使われているメロディーをミスチル割りと名付けていました。(付点8部音符)
innocent worldの頃の桜井さんは「15秒のCMでいかにインパクトを与えるか」を考えて、ストップウォッチで計測しながら曲を作っていました。
その中で「これが耳に残る」と思ったんでしょうね。
今もストップウォッチをもっているかは知りませんが、タイアップの時はきっとやっているんじゃないでしょうか。
このミスチル割りは特にシングル曲、タイアップ曲のサビ頭でよく使われています。
- いつの日もこの胸に流れてるメロディー(innocent world)
- 今僕のいる場所が~(Any)
- 果てしない闇の向こうで~(Tomorrow never knows)
- あるがままの心で~(名もなき詩)
- 生きている証を時代に打ち付けろ(I’LL BE)
- 古い遊園地の観覧車から(箒星)
- 見飽きたこの街が(Melody)
- 僕だけが行ける世界で(Starting Over)
- 誰もが孤独じゃなく誰もが不幸じゃなく(fantasy)
- 暗がりで咲いてるひまわり(himawari)
まだまだありそうですが、こうやって思いつきで挙げただけでも中々の数ですね。
初めてこうして数えてみて私もびっくりしました。
こうなると他の曲の方でも「あ!それミスチル割り!」と言いたくなってしまいますね。
それでいえば乃木坂48のインフルエンサーなどもそれで言えばミスチル割りになります笑
勝手な推測ですが、桜井さんがこれを覚えた(影響を受けた)曲はtubeのビーチタイムだと思います。
(作曲:織田哲郎)
サビのド頭の「好・き・な・の・さ」はかなりインパクトがあります。
ミスチルの作曲の凄さ3つに分けて解説
前置きが長くなりましたが、ミスチルの曲のすごさについてはこちらの本に詳しいです。
音楽理論がわかる方向けの(マニア向けと言ってもいい)本です。
こちらに書いてあることに重複しますが、桜井さんの作曲のすごいポイントを「innocent world」を例として以下の3つに分けて解説します。
- メロディーのインパクト
- 裏切りの音
- 歌詞とのリンク
1.メロディーのインパクト
ポップス(主にJ-POP)の醍醐味はサビに向けて盛り上がる(爆発させる)ことにあると言っても過言ではないです。
サビのメロディー(※歌詞、アレンジはここではスルーします)を盛り上げるための手法として代表的なものはこちら3つです。
①音域を高くする
②音符を大きく飛ばす
③サビ以外をあえて落ち着かせる
ミスチルの場合、ここにさらに
④印象的な符割りにする(ミスチル割り)が追加されます。
①と③は説明なしでもわかるかと思いますが、②の音を飛ばすというのは、ドからミより、ドからソの方が音が飛んでいる、という意味のものです。
innocent worldでは「いつの日のこの胸に流れてるメロディー」の「流れてる」の「な」と「が」がソからファまで音が飛んでいます。
歌いだしは「黄昏の街を背に~」と歌詞まで抑え目な(?)内容で、キーもかなり低く、サビとは正反対です。
今はそうでもないかもしれないですが、一時、「5度以上音を飛ばす」というのが、メロディーに印象を残すための技として挙って作曲家が使っていた時期がありました。
5度というのは、ドを基準にするとソにあたり、きらきら星の「きらきら光る お空の星よ」「ドードー、ソーソー、ラーラーソー」の部分です。
音を飛ばすとそこにメロディーの爆発力が生まれます。
きらきら星を「ドードー、ドードー、ラーラーソー」とオクターブ飛ばすとその違いがわかると思います。
当然、爆発を抑えるときはメロディーの音はあまり飛ばさないです。
桜井さんは音域が広いこともありこのメロディーの爆発力の強弱の使い方がとてもうまいです。
■Aメロ
innocent worldの歌い出しは驚くほど低いです。
ライブでは女性ファンは1オクターブ上で歌うしかないです。
音もほとんど飛ばしません。
■Bメロ
後半からグングン盛り上がっていきます。
そしてBメロ終わりでも「あーるーきつーづーけてゆーくよー」とミスチル割りで盛り上げて
「いいだろう?Mr.myself」に繋がります。
■サビ
そしてついにサビです。
innocent worldのサビは作曲家としての桜井さんの凄さが集約されています。
2.裏切りの音
「いつの日もこの胸に流れてるメロディー」
このワンフレーズで、
- ミスチル割り
- 音飛ばし
- 裏切りの音
があります。
前述の通り、流れてるの「が」で音が飛んでいます。
それだけでも印象的な音ですが、その音が、ドミソという和音に「ファ」という、和音にない音を歌っています。
いわば、裏切られた音です。
聞き心地の良くない音(不協和音)なんですが、ほんの一瞬です。
これがとてもいいスパイスになります。
ハンバーガーを食べ進めたらピクルスが出てビックリという感じでしょうか笑
この裏切り感が「せつないメロディー」の正体の1つです。
それをサビの盛り上がるところで音を飛ばして使うあたりがさすがです!
かなりすっぱいピクルスです笑
ここまででも相当すごいのですが、ここからさらにもう1つやってくれてます。
「陽の当たる坂道を登るその前に~」
「またどこかで会えるといいな~」
この超ハイトーンボイスのところで、赤字の部分で伴奏の雰囲気変わり、ふわっとする感じがわかりますでしょうか。
先程はメロディーが裏切りましたが、今度は伴奏(コード)が裏切ります。
映画でいうならメロディーは台詞です。
伴奏(コード)はその背景です。
「早く家に帰りたい」という言葉を「オールで遊んだあとに言う」のと「戦場から言う」のでは、台詞は同じでも世界が全然異なることと同じです。
これもせつなさの正体の1つです。
特にinnocent worldでは「その前に~」の「に」がファルセット(裏声)になり、一旦力が抜けた感じにして、再度「またどこか出会えるといいな」でもうひと盛り上がりします。
本当によくできています。
3.歌詞とのリンク
前述のメロディー、コードでせつなさを表現する音楽はたくさんあるのですが、ミスチルの他のアーティストにないすごいところは歌詞と曲がリンクしているところです。
「I’m talking about Lovin’」の解説でも書きましたが、せつない音にはせつない言葉が使われています。
innocent worldでは
「陽の当たる坂道を登るその前に~」
「またどこかで会えるといいな~」
多分よく聴けば音楽知識がなくても「なんか変わった感じ」をつかめると思います。
ミスチルの曲はどの曲も見事と思うくらいせつない音の時は、切ないワードまたは英語詞が使われています。これが人気の要因であることは間違いありません。
ミスチルの曲の凄さ、まとめ
- メロディーのインパクト(特にサビの)
- 裏切り感(切なさ)をメロディーでもコードでも出している
- 歌詞と曲がせつないポイントでリンクする
特に3はミスチルならではです。
余談として
innocent worldではイントロのギターが最後に歌とリンクしながら演奏されますが、なんとコード進行はイントロとは別物!
先程の映画のたとえ言うと映画の冒頭と最後に同じセリフを言っているけれど、背景が全然違うというわけです。
これはなかなか斬新です。
これが計算でできたのか偶然でできたのかはわかりませんが、私は多分、偶然だと思います。
・・・・そこまで分析できているなら実際にミスチルを作れるじゃん、と思った方もいるかもしれません。
当然、そんな簡単な話ではないです笑